2007年05月22日

大自然!

木曜の朝七時の飛行機に乗って、三泊四日でワシントン(州)に旅行に行ってきました。シアトルから南西の方角にあたるオリンピック半島は、そのほとんどが国立公園もしくは国営林に指定されている、滴るような緑がすばらしいところです。太平洋からの湿気が、半島中央の山脈に阻まれて雲になり、一年中雨が多いので、雲を突くような温帯雨林の森に、黄金色の苔がみっしりと生えて、ちょっと神秘的な感じすらします。

Rainforest

オリンピックナショナルパークは去年の冬に激しい嵐に見舞われて、トレイルの多くが損害を被った、ということで、今年になってもまだ多くの登山道が閉鎖されていました。開通している数少ないトレイルの中から、私たちはQuinault Riverに沿って東側に延びる谷間を行くコース(East Fork Quinalt River Trail; Enchanted Valley Trail)を選びました。人生初、キャンプで一夜を過ごすハイキングとあって、俄然興奮も高まります。(30キロはあるバックパックを背負って一歩歩けば、その興奮も惨めにしぼんでしまうのですが...)

Quinault River

始めのうちかつての林道を辿っていたトレイルは、三キロほど入ったところでQuinault Riverの谷間に降りて行きます。トレイル最初の見所とも言うべきポニー・ブリッジという橋からの眺めは、苔むした崖あり、黒々と光る濡れた岩の間を細く落ちる滝あり、氷河から流れ出る青い水に枝を伸ばす杉あり、で、まるで日本の谷川のよう。アメリカ版ポカリスゥェットのようなもので水と電解質を補給しつつ、さらに歩きます。途中には人間を見ても全く逃げようともしない雷鳥(Blue Grouse)や、森の少し開けたところで夕日を浴びながらゆったりと草を食むエルク(Roosevelt Elk、大型の鹿)などがいて、思わず声をひそめ(ひそめなくても逃げないんですが)、歩を止めて見とれてしまいました。

登山口のレンジャーが言っていた通り、ポニー・ブリッジを越えてしばらく行くと、トレイルをまたぐようにして倒れた松や杉の木がぽつりぽつりと現れだしました。これが照葉樹だったら、どこもかしこも枝だらけで、またいで越えるのもくぐって越えるのも一苦労ですが、幸いすっと幹の伸びた針葉樹がほとんどで、助かります。とは言っても、背中に巨大なバックパックがくっついていることもあり、なかなかに大変ではありましたが。右手に見えるQuinault Riverにも、上流から流されてきたのか倒木がたくさん散らばっていました。

Downed Trees

大水で橋が流されてしまったFire Creekを越え、さらにえっちらおっちら歩いているうちに、だんだん暗くなってきました。朝シカゴを発って、実際に歩き始めたのは三時近かったので、いくら日の長い北部と入っても、さすがに七時半を過ぎると林の中はうっすらと暗くなります。そろそろキャンプできる場所を探さなければ、ということで見回すと、トレイルに沿ってぽつんぽつんと、丸く下生えを刈ったキャンプサイトが見えてきました。人間が入り込むことによるダメージを最小限にするためにも、このように既に誰かが使ったあとのある場所でしかキャンプしてはいけない、とのこと。納得です。目指していたO'Neil Creekのキャンプ場に降りて行く道が見つからなかったので、その少し手前のサイトまで戻って、そこでテントを設営するころには、既に林の中は真っ暗。そうは言ってもここは熊も出る真の大自然、熊たちに人間=食べ物、という方程式を刷り込まないためにも、においのするものは食べ物からゴミまですべて熊君の手の届かない木の枝から吊るさなければいけません。暗い中でヘッドランプを点けて、引っ越し紐(軽くて丈夫で、こういうことには最適です)でなんとか近くの木に吊るしました。

Food on Bear Rope

ロッキー山脈などでは、熊が人間=食べ物、の方程式を覚えてしまい、キャンプ中に熊が食料を漁りに来た、とか、木から吊るしておいた食料を器用に紐をたぐっておろして食べてしまった、とか言う話がよくありますが、オリンピックの熊たちは良い意味で人間に慣れていないらしく、人目につくところに出てくるのも稀なのだそうです。そうは言われても、テントの中で寝ているときに外でごそごそ落ち葉を踏む音がすると、きっとなにかちっぽけな動物なのだと分かってはいても、ややっ熊か!?とドキドキしてしまうのはハイキング初心者の証でしょうか。翌朝起きてみると、吊るした食料もテントの脇に置いたバックパックも無事でした。ほっ。

Breakfast on the Camp

林の奥に入ってするべきことをすませ、川岸の倒木に座って朝ご飯にします。朝の空気はくっきりと冷えていて、せめて温かいコーヒーが飲めるハイキング用のコンロが欲しいところですが、ここはニッポン女児(とアメリカ男児)、パックの重量を減らすためにも我慢の一字です。(私たちはデジタルの一眼レフを使っているので、そうでなくともズームレンズにマクロ、広角レンズなどなど、やたらにかさばる重い荷物になってしまうのです。)昨日の夜は真っ暗な中でアップルソース(これが冷たくて、のどにさらりと通り、抜群においしかった!)とベーグルに燻製のソーセージを食べましたが、今朝も似たり寄ったりのメニューです。カフェイン中毒の私たちは、せめて冷たいコーヒーでもないよりはましだろうと、小さなパックに入った濃縮コーヒーを水に薄めて飲んでみました。缶入りコーヒーのような味ですが、緊急時にはなかなかいける味でした。

五時半に目が覚めたにもかかわらず、ごそごそやっているうちに瞬く間に時計は八時近くを指し、これはいかん、と早々にキャンプを畳み、出発です。途中でチョコレートやナッツ、ドライフルーツなどがミックスされたトレイルミックス(アメリカではポピュラーなスナックです)をつまんだり、クリフバーというお手軽栄養補給スナックを齧ったりしつつ、朝の金色の光が白昼の強い光に変わる中を歩きます。(このクリフバー、ブルーベリーやアプリコット、ピーナッツバターにミント・チョコレート、とかなりたくさんの味があって、カロリーメイトみたいに口の中でもそもそすることもなく、私のお気に入りのスナックです。)往復約二十キロのトレイルが終わるころには、パトリックと二人で五リットルの水を空にしてしまいました。終始十五度ぐらいの、ハイキングには最適の気候ですらこうなのですから、砂漠の中を歩く人たちなんていったい何リットルの水を担いで行くのかしら、と思ってしまいます。ひえ〜。

雨の多いオリンピックですが、私の初キャンプ旅行は幸運の女神が微笑んでくれたのか、雨も降らず、気温も適度で、かなり快適でした。それでもキャンプを張るころには頭の先から足の先までみっちり汚れた感じがして、寝袋に入るのもちょっとためらわれるくらいでした。タオルを濡らして体は拭いたものの、やっぱり毎日シャワーを浴びられる街の暮らしに慣れた体には気持ちが悪い。一泊以上のハイキング、日帰りでは行けない山の奥まで行けるのは魅力ですが、これを考えるとちょっと二の足を踏んでしまいます。ともあれ、私の人生初・キャンプ・ハイクは、クーガーに襲われることもなく、熊に食料を食べられてしまうこともなく、無事終了です。

食べ物関係で最大の反省点は(フリースジャケットにくるんだリンゴを枝から吊るすのを忘れたことを除けば)、ベーグルでした。他のハイカーの勧めに従って荷物に入れたのですが、ぱさついて喉に引っかかる感じだし、しっかり噛まないと食べられないし、で、疲れているときにはあまりいただけない代物だということが分かりました。普通のパンみたいにすぐに固くならないのは良いんですが...。それより良かったのが、飛行機の中でくれた安物のクラッカー。汗をかいたカラダに塩気がおいしいし、ベーグルみたいに喉に詰まる感じもありません。次回からはベーグルよりクラッカー、というのがこのハイキング旅行の教訓でした。

Posted by Yu at 2007年05月22日 09:29


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