シカゴ・スローフード協会主催のリトルヴィレッジ・ツアー、後編です。(前編はこちら。)冷たいオルチャータでかりかりの喉を潤した後は、チーズや乾物を中心としたメキシコからの輸入食材を売る小さな食品店に向かいます。Cremaria Santa Mariaのオーナーは、月に一度メキシコに飛んで、自分の眼で確かめた品質の良いものだけを持ち帰るのだとか。本当にちっぽけな、お客が五人も入ったらすし詰めになってしまいそうな小さなお店に、色とりどりの豆の袋やメキシコ版ミルクケーキのようなお菓子、殻付きのままこんがりとローストしたピーナッツ、種々雑多な乾燥唐辛子などが所狭しと並べてあります。一番奥の冷蔵カウンターには、メキシコからの輸入チーズが並んでいます。なんだか辛そうな、唐辛子を一面にまぶしたチーズを見ていると、「こうやって唐辛子をまぶしておくと、市場に出した時に蠅が寄ってこないんですよ」と、ダニエルが教えてくれました。近所のスーパーでもよく見かける真っ赤っか唐辛子チーズですが、そんな理由があるとは知りませんでした。なるほどねぇ。
ここでは、メキシコ直輸入のオアハカ・チーズを賞味。イタリアやフランスの淡い黄色のチーズに比べると、メキシコのチーズはだいたいみんな驚くほど真っ白なのですが、このメキシコ南部、オアハカ地方のチーズも然り。とてもマイルドなチーズで、匂いの強いチーズの苦手な私にもおいしく食べられました。同じメキシコのチーズでも、近所のメキシカンスーパーで買って来るパック入りのものとは格段の差。試食では食べきれなかった分をごっそりもらって帰ったのですが、いつものようにトルティーリャに載せてトースターで少し暖めて食べたら、濃厚なミルクの香りがして、もちもちとした質感はまるで上質のモッツァレラチーズのよう。いつものチワワチーズ(メキシコ北部のチワワ地方で作られるチーズ。チワワの乳で作ったチーズじゃありませんよ...笑)もおいしいと思っていたけれど、本物って、やっぱり違うんだなぁ、とつくづく思わされるチーズでした。
チーズを試食した後は、26th Street沿いに点在するメキシコのカウボーイ装束を売るお店や、安物のウェディングドレスとタキシードを売るお店などを横目に見ながら、東に向かいます。次なる目的地は、シカゴ周辺に十店ほどを展開するローカル・チェーンのメキシコ版駄菓子屋さん。このDulceLandiaも、実はパトリックのアパートから数ブロック南の小さなモールにあるのですが、行ったことはありませんでした。特定の民族向けにやっているようなお店って、興味は合ってもなかなか入りにくいことが多いので、こういうツアーがあると観光客気分で入れてしまい、嬉しい限りです。(ま、他人の領分で物見高くきょろきょろしているようで、気が引けると言えばそうなんですけどね...これは、旅行している時と同じ。)
DulceLandiaは、直訳すると「甘いものの国」。名前の通り、ドアを開けて一歩入ると、薄暗い店内はまさにお菓子の山。キャンディーに種々のキャラメル、チョコレートなどが、文字通りうずたかく積み上げられていて、このディスプレイを整然と保っておくのは並大抵の努力じゃないよな、と感心してしまいます。子供のころに帰ったような気分で、かなりの広さの店内を探索。天井からは、メキシコの子供が誕生日にもらう、「ピニャータ」と呼ばれる張り子の人形がぎっしりと下がっています。このピニャータを木の枝などからぶら下げて、目隠しをした誕生日の子供が、盲滅法棒で叩くのです。周りのみんながヤンヤと囃し立てるのは、スイカ割りみたいなもの。うまく行ってピニャータが壊れると、中にはお菓子がごっそり入っていて、これを集まった子供たちみんなで食べる、という仕掛け。う〜ん、やってみたいかも...二十年くらい遅いか(爆)。
DulceLandiaのお菓子はほとんどメキシコからの輸入品。うろうろしていると、「鶏肉味」というトンデモナイ飴を見つけました。紙の棒に刺さっているところはペロペロキャンディーと同じなのですが、なんとキャンディー部分が鶏の丸焼き型。鶏肉味のキャンディーって、一体どんな感じなんでしょうね。好奇心は疼いたものの、怖くて手が出ませんでした。「カルロス五世」という不思議な名前のチョコレートも発見。カルロス五世って、神聖ローマ帝国の皇帝でしょ?なんでそれがチョコレートに?謎です。真っ赤な箱には、70年代の青春ドラマに出てきそうな、気味悪いくらい爽やかな皇帝が微笑んでいました。
ここでダニエルが袋に一杯買って皆に配ったお菓子は二種類。牛乳の代わりにヤギのミルクで作ったというメキシコ版キャラメルを、日本のもなかの皮のようなものに挟んだお菓子と、タマリンドの実を唐辛子とお砂糖とともに練り合わせたお菓子。山羊キャラメルは、ゴートチーズのような後味がして私にはきつすぎました(ゴートチーズの好きな人にはたまらない味のはず)が、タマリンドのキャンディーはなにやら懐かしい、癖になる味でした。タマリンドの酸味が、何となくはちみつ梅干しのような感じで、子供のころに母に隠れて時々行った駄菓子屋さんを思い出しました。ねっとりとしたタマリンドの果肉に、お砂糖がじゃりっとした食感を添えて、大きな種を避けつつ食べる、歯触りも楽しいお菓子でした。
リトルヴィレッジのスローフード・ツアー、最後の〆は、アグアスカリエンテス。リトルヴィレッジではかなり大きい部類に入るメキシコ系のスーパーマーケットです。雰囲気としてはパトリック御用達、やはりメキシカンのモースマートにそっくりでしたが、サイズは三倍くらい。野菜類はモースマートのほうが新鮮そう。アグアスカリエンテスの目玉は肉類のカウンターでした。どのお肉もみんなとても新鮮そうな色で、モースマートで時々見かける灰色がかってきたようなものは一切れもありません。ファヒータ用の香辛料に漬け込んだものや、お店で手作りのチョリソーなども何種類もあって、近所に住んでいたら通ってしまいそうでした。お肉のカウンターの反対側には、スパイス類のラックがありました。大きな干しエビ(甘エビサイズです!)やら、グアヒーリョやアンチョといったメキシコの唐辛子やら、葉巻みたいに巨大なシナモンスティックやら、どれも安くて、これまた近所に住んでいたら通ってしまいそう。モースマートにも同じものがないか探してみよう、と心覚えをして、同じ建物の一角にあるダイナー風のレストランに向かいます。
アグアスカリエンテスのオーナーが経営しているこのレストラン(というより食堂、と言ったほうがぴったりな感じ)、シカゴ中どこでも見かけるゴルディータ(「太っちょさん」と言ったような意味です)というメキシコ版サンドイッチの発祥の地だそうです。なんだかおいしくなさそうな写真になってしまいましたが、トウモロコシの粉で作ったピタパンのようなパンに、唐辛子と一緒に煮込んだお肉や、チーズとフリホーレス(甘くないピント豆のあんこ)などを挟んで食べる、チカーノ(アメリカ在住のメキシコ人のことをこう呼ぶことがあります)庶民の味。なんとか安くて腹持ちの良い食べ物ができないものかと考えて出来上がったものだそうですが、このレストランで出てくるゴルディータはお肉もたっぷり、タコスやエンチラーダと比べてもそんなに経済的なものとも思えませんでした。(値段的には、巨大なゴルディータが一つ三ドル以下と、お手頃価格ですが...)なにしろやたらに暑い中を歩き回ったので、ゴルディータと一緒に飲んだ甘酸っぱいタマリンド水が命の水のようでした。
ボランティアで運営されているためになかなか定期的とはいかないスローフード協会のネイバーフッド・ツアーですが、個人では行きにくい(ちょっと危険そうだったり、特定のエスニック・グループの牙城だったりする)ネイバーフッドを探索するには最高のツアーです。一人15ドルで、試食するものも全部カバーされます。最後のレストランでは参加者同士がゆっくりおしゃべりできるし、食べ物に興味がある人同士、交流の輪を広げることもできます。私たちはこれが初参加でしたが、他のネイバーフドに行くツアーがあれば、またぜひ参加しようと思っています。(スローフード・シカゴ支部のメンバーになることも検討中。)支部のホームページからイベントのページに行くと、次のツアーがいつ、どこであるかが分かるようになっています。(今日の時点ではバグがあるようでした。早く直ると良いんですが...)面白そうだ、と思ったら、ぜひ行ってみてください。表面をなぞるだけじゃない、ディープなシカゴが見られること、請け合いです。
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