2007年06月30日

国境を越えないメキシコ:シカゴでスローフード・ツアー(後編)

Roasted Peanuts at Cremaria Santa Mariaシカゴ・スローフード協会主催のリトルヴィレッジ・ツアー、後編です。(前編はこちら。)冷たいオルチャータでかりかりの喉を潤した後は、チーズや乾物を中心としたメキシコからの輸入食材を売る小さな食品店に向かいます。Cremaria Santa Mariaのオーナーは、月に一度メキシコに飛んで、自分の眼で確かめた品質の良いものだけを持ち帰るのだとか。本当にちっぽけな、お客が五人も入ったらすし詰めになってしまいそうな小さなお店に、色とりどりの豆の袋やメキシコ版ミルクケーキのようなお菓子、殻付きのままこんがりとローストしたピーナッツ、種々雑多な乾燥唐辛子などが所狭しと並べてあります。一番奥の冷蔵カウンターには、メキシコからの輸入チーズが並んでいます。なんだか辛そうな、唐辛子を一面にまぶしたチーズを見ていると、「こうやって唐辛子をまぶしておくと、市場に出した時に蠅が寄ってこないんですよ」と、ダニエルが教えてくれました。近所のスーパーでもよく見かける真っ赤っか唐辛子チーズですが、そんな理由があるとは知りませんでした。なるほどねぇ。

ここでは、メキシコ直輸入のオアハカ・チーズを賞味。イタリアやフランスの淡い黄色のチーズに比べると、メキシコのチーズはだいたいみんな驚くほど真っ白なのですが、このメキシコ南部、オアハカ地方のチーズも然り。とてもマイルドなチーズで、匂いの強いチーズの苦手な私にもおいしく食べられました。同じメキシコのチーズでも、近所のメキシカンスーパーで買って来るパック入りのものとは格段の差。試食では食べきれなかった分をごっそりもらって帰ったのですが、いつものようにトルティーリャに載せてトースターで少し暖めて食べたら、濃厚なミルクの香りがして、もちもちとした質感はまるで上質のモッツァレラチーズのよう。いつものチワワチーズ(メキシコ北部のチワワ地方で作られるチーズ。チワワの乳で作ったチーズじゃありませんよ...笑)もおいしいと思っていたけれど、本物って、やっぱり違うんだなぁ、とつくづく思わされるチーズでした。

チーズを試食した後は、26th Street沿いに点在するメキシコのカウボーイ装束を売るお店や、安物のウェディングドレスとタキシードを売るお店などを横目に見ながら、東に向かいます。次なる目的地は、シカゴ周辺に十店ほどを展開するローカル・チェーンのメキシコ版駄菓子屋さん。このDulceLandiaも、実はパトリックのアパートから数ブロック南の小さなモールにあるのですが、行ったことはありませんでした。特定の民族向けにやっているようなお店って、興味は合ってもなかなか入りにくいことが多いので、こういうツアーがあると観光客気分で入れてしまい、嬉しい限りです。(ま、他人の領分で物見高くきょろきょろしているようで、気が引けると言えばそうなんですけどね...これは、旅行している時と同じ。)

Dulce LandiaDulceLandiaは、直訳すると「甘いものの国」。名前の通り、ドアを開けて一歩入ると、薄暗い店内はまさにお菓子の山。キャンディーに種々のキャラメル、チョコレートなどが、文字通りうずたかく積み上げられていて、このディスプレイを整然と保っておくのは並大抵の努力じゃないよな、と感心してしまいます。子供のころに帰ったような気分で、かなりの広さの店内を探索。天井からは、メキシコの子供が誕生日にもらう、「ピニャータ」と呼ばれる張り子の人形がぎっしりと下がっています。このピニャータを木の枝などからぶら下げて、目隠しをした誕生日の子供が、盲滅法棒で叩くのです。周りのみんながヤンヤと囃し立てるのは、スイカ割りみたいなもの。うまく行ってピニャータが壊れると、中にはお菓子がごっそり入っていて、これを集まった子供たちみんなで食べる、という仕掛け。う〜ん、やってみたいかも...二十年くらい遅いか(爆)。

DulceLandiaのお菓子はほとんどメキシコからの輸入品。うろうろしていると、「鶏肉味」というトンデモナイ飴を見つけました。紙の棒に刺さっているところはペロペロキャンディーと同じなのですが、なんとキャンディー部分が鶏の丸焼き型。鶏肉味のキャンディーって、一体どんな感じなんでしょうね。好奇心は疼いたものの、怖くて手が出ませんでした。「カルロス五世」という不思議な名前のチョコレートも発見。カルロス五世って、神聖ローマ帝国の皇帝でしょ?なんでそれがチョコレートに?謎です。真っ赤な箱には、70年代の青春ドラマに出てきそうな、気味悪いくらい爽やかな皇帝が微笑んでいました。

ここでダニエルが袋に一杯買って皆に配ったお菓子は二種類。牛乳の代わりにヤギのミルクで作ったというメキシコ版キャラメルを、日本のもなかの皮のようなものに挟んだお菓子と、タマリンドの実を唐辛子とお砂糖とともに練り合わせたお菓子。山羊キャラメルは、ゴートチーズのような後味がして私にはきつすぎました(ゴートチーズの好きな人にはたまらない味のはず)が、タマリンドのキャンディーはなにやら懐かしい、癖になる味でした。タマリンドの酸味が、何となくはちみつ梅干しのような感じで、子供のころに母に隠れて時々行った駄菓子屋さんを思い出しました。ねっとりとしたタマリンドの果肉に、お砂糖がじゃりっとした食感を添えて、大きな種を避けつつ食べる、歯触りも楽しいお菓子でした。

リトルヴィレッジのスローフード・ツアー、最後の〆は、アグアスカリエンテス。リトルヴィレッジではかなり大きい部類に入るメキシコ系のスーパーマーケットです。雰囲気としてはパトリック御用達、やはりメキシカンのモースマートにそっくりでしたが、サイズは三倍くらい。野菜類はモースマートのほうが新鮮そう。アグアスカリエンテスの目玉は肉類のカウンターでした。どのお肉もみんなとても新鮮そうな色で、モースマートで時々見かける灰色がかってきたようなものは一切れもありません。ファヒータ用の香辛料に漬け込んだものや、お店で手作りのチョリソーなども何種類もあって、近所に住んでいたら通ってしまいそうでした。お肉のカウンターの反対側には、スパイス類のラックがありました。大きな干しエビ(甘エビサイズです!)やら、グアヒーリョやアンチョといったメキシコの唐辛子やら、葉巻みたいに巨大なシナモンスティックやら、どれも安くて、これまた近所に住んでいたら通ってしまいそう。モースマートにも同じものがないか探してみよう、と心覚えをして、同じ建物の一角にあるダイナー風のレストランに向かいます。

Gorditas at Aguascalientesアグアスカリエンテスのオーナーが経営しているこのレストラン(というより食堂、と言ったほうがぴったりな感じ)、シカゴ中どこでも見かけるゴルディータ(「太っちょさん」と言ったような意味です)というメキシコ版サンドイッチの発祥の地だそうです。なんだかおいしくなさそうな写真になってしまいましたが、トウモロコシの粉で作ったピタパンのようなパンに、唐辛子と一緒に煮込んだお肉や、チーズとフリホーレス(甘くないピント豆のあんこ)などを挟んで食べる、チカーノ(アメリカ在住のメキシコ人のことをこう呼ぶことがあります)庶民の味。なんとか安くて腹持ちの良い食べ物ができないものかと考えて出来上がったものだそうですが、このレストランで出てくるゴルディータはお肉もたっぷり、タコスやエンチラーダと比べてもそんなに経済的なものとも思えませんでした。(値段的には、巨大なゴルディータが一つ三ドル以下と、お手頃価格ですが...)なにしろやたらに暑い中を歩き回ったので、ゴルディータと一緒に飲んだ甘酸っぱいタマリンド水が命の水のようでした。

ボランティアで運営されているためになかなか定期的とはいかないスローフード協会のネイバーフッド・ツアーですが、個人では行きにくい(ちょっと危険そうだったり、特定のエスニック・グループの牙城だったりする)ネイバーフッドを探索するには最高のツアーです。一人15ドルで、試食するものも全部カバーされます。最後のレストランでは参加者同士がゆっくりおしゃべりできるし、食べ物に興味がある人同士、交流の輪を広げることもできます。私たちはこれが初参加でしたが、他のネイバーフドに行くツアーがあれば、またぜひ参加しようと思っています。(スローフード・シカゴ支部のメンバーになることも検討中。)支部のホームページからイベントのページに行くと、次のツアーがいつ、どこであるかが分かるようになっています。(今日の時点ではバグがあるようでした。早く直ると良いんですが...)面白そうだ、と思ったら、ぜひ行ってみてください。表面をなぞるだけじゃない、ディープなシカゴが見られること、請け合いです。

Posted by Yu at 12:09 | Comments (0)

2007年06月29日

国境を越えないメキシコ:シカゴでスローフド・ツアー

1980年代にイタリアで始まり、今は世界中あちこちに広がったスローフード運動、シカゴにも支部があります。伝統の食材や調理法を大事にしようというスローフード運動、何が「伝統」なのかよくわからない移民国家のアメリカでどう運動を展開しているのか興味があって、先日スローフード・シカゴ主催のネイバーフッド・ツアーに参加しました。「ネイバーフッド*の街」と言われるだけあって、シカゴはそれぞれの地区ごとに違った特色があるのですが、その中でも特に移民色の強いいくつかのネイバーフッドを(食べ)歩こう、というのが趣旨。その中で、私たちはメキシコ移民のたくさん住むリトル・ヴィレッジを歩くツアーに参加しました。

Bread at La Baguette朝早くから強い日が照りつける当日、ダウンタウンのさらに南の26th Streetにあるメキシカン・ベーカリーに集合。Panaderia La Baguetteというこのローカルチェーン、メキシコ人の多いロジャースパークにも一軒お店があり、私たちには物珍しいお店ではありませんが、12人くらいいた他の参加者には真新しかったようです。お店の前で一通りLittle Villageの歴史を聞いた後、お店に入ってそれぞれに面白そうなパンを取ります。こちらのパン屋さんは、何が欲しいかを店員さんに告げて取ってもらう形式がほとんどなのですが、ここも含めて、メキシカン・ベーカリーは日本式にトレーとトングを持って自分で好きなものを取る方式です。メロンパンみたいなパンがあったりしてホッコリ嬉しくなってしまいましたが、メキシコのパンは日本のものに比べるとかなりぱさぱさ。好き嫌いだと思いますが、私はわざわざ買って食べたいと思うようなものには巡り会いませんでした。食べ物は皆で分け合ってこそ、というスローフードのもう一つの哲学を実践して、みんなが選んだ菓子パンやパイを切り分けて一口ずつ試すうちに、何となく会話が始まります。

El Milagro Tortilla Factory次の目的地は、道路を渡ったすぐのトルティーリャ工場。El Milagro(奇跡)というブランドのトルティーリャはトウモロコシの香りが馥郁としてパトリックのお気に入りだったのですが、なんとその工場にお邪魔できるというのです。残念ながら製造工程は見せてもらえませんでしたが、その工場の一角を小売店にしたところを覗かせてもらいました。シャワーキャップみたいな帽子をかぶったおばちゃんが、こちらでマサ(トウモロコシを挽いて作ったトルティーリャの原料、写真手前に山のようになっているのがそれです)を1ポンド、あちらでトルティーリャチップを一袋、と、手際よく注文を捌いていきます。そうしている間にも、奥の工場から続々といろんな種類の(黄色いトウモロコシ、白いトウモロコシ、小麦粉、焼いたの、揚げたの、etc.)トルティーリャの箱が出荷されて、まぁ忙しそうなこと。写真を二三枚撮って、観光客は早々に引き上げました。外に出たところで、ボランティアでガイドをしてくれたダニエル(女性です)が、焼きたてのトルティーリャをみんなに配ってくれました。「これにモーレソースがあれば完璧なのになぁ」と誰かが言った通り、何かつけたほうがおいしいのはその通りなのですが、焼きたてでまだ暖かいトルティーリャを工場のすぐ外で食べるのは、やっぱりちょっと楽しいかも。完っ全に観光客ですけどね。

Horchata Vendor in Little Village朝から暑いし乾燥していたこの日、トルティーリャ工場を出るころには喉がからから。26th Street沿いに点在する小さなスーパーに入ってお水を買おうかと思うくらいです。それを知ってか知らずか、次のポイントは飲み物の屋台でした。まずは、「この暑いのに、という感じだけど、ちょっと試すだけだから」と、もう一人のボランティア・ガイドのマーガレットがメキシコ版のホットココアを小さなカップに注いで回ります。チャンプラード(champurrado)と呼ばれるこのココア、なんとアステカ時代にまで遡るという飲み物で、冬のメキシコでは仕事に行く前に屋台で一杯飲んでいくのが風物詩なのだそうです。ココアの味というよりは、とろみをつけるためのトウモロコシの粉の香りと、後から加えるシナモンの香りが勝っている感じでした。うーん、私はいつものホットチョコレートのほうが好みかも。やはりこの日はとろりと暖かい飲み物には暑すぎる気候だったようで、チャンプラード売りのおばちゃんは暇そうでした。

そのすぐお向かいに店を出していたのが、上の写真のおばちゃん。大きな氷を一杯に詰めたクーラーボックスをいくつも置いて、この人は冷たいタマリンドのジュースなどを売っていました。孫らしき十二歳くらいの男の子が、額の汗をTシャツで拭きつつ、せっせと氷を削る手伝いをしています。私たちが試したのは、ラテン系の文化に興味のある人ならご存知のオルチャータ(horchata)。スペインではタイガーナッツという植物の根っこを使って作るのですが、ラテンアメリカではお米の粉を使います。これを冷たい水に溶かし、お砂糖とシナモンなどのスパイスを加え、きりりと冷やして飲む夏の飲み物。スペインにもラテンアメリカにも旅行した私ですが、恥ずかしながらオルチャータを飲むのは今回が初めてでした。先ほどのチャンプラードに似て、お米の粉の味よりもシナモンの香りが先に立って、でも乾いた喉にこの冷たさは最高です。かなり甘いので、普段飲みたいかと言われると疑問符ですが、ずっと前から試してみたかった飲み物なので、満足でした。(英語版Wikipediaによると、タイガーナッツの根っこにはナッツのような香ばしい味があるとか。スペイン版も試してみたい!)

シカゴのスローフード協会主催のネイバーフッド・ツアーはまだ続きますが、長くなってきたのでここで休憩。明日また書きます。

* 英語でいう「ネイバーフッドneighborhood」は、日本語の「ご近所」よりもかなり広い地域を指します。「町内会」の範囲よりも多分もっと広くて、感じとしては同じ町名の区域くらいでしょうか。だから、同じネイバーフッドに住んでいるからと言って、必ずしもみんな顔見知り、ということはありません。世間話をする中で同じネイバーフッドに住んでいることが分かると、何となくうっすらと連帯感を感じる程度です。同じネイバーフッドでも、幹線道路を一本渡ると全く雰囲気が違う、ということも多々あります。が、数あるネイバーフッドの中でも、特に特定の地域からの移民が多いようなネイバーフッドは、今でも彼らの出身地域の雰囲気と連帯感を残しているようなところもあり、「ネイバーフッドなんて行政上の区分に過ぎないよ」と、簡単に言ってしまえない部分もあります。

Posted by Yu at 17:28 | Comments (1)