シカゴから車で一時間ちょっとのところにあるVoloという街に巨大アンティークモールがある、と聞き込んできて、ちょうどパトリックの持っているガタガタのダイニングテーブルの後釜を探しているところだったので、行ってきました。郊外に住んでいる私の母も誘って、もろアジア人の母娘に紅毛碧眼のパトリック、という妙なトリオで。(実はこの凸凹トリオでアラスカにも行っていたりします。母の参加に嫌な顔一つしないパトリックに、本当に感謝です。)日曜日は混むに違いない、ということで、朝八時に実家に集合し、実家の近くのウォーカーブラザーズ・パンケーキハウスで腹ごしらえ、そのままVoloに向かうことにしました。
ウォーカーブラザーズは、シカゴ北部に支店がいくつかあるパンケーキ専門店で、いつも朝は早くから家族連れで大盛況。それもそのはず、ここのパンケーキはチョコチップからブルーベリーまで、どれを食べてもふわふわで、ほんのり卵の味がして、おいしいんです。オムレツやクレープもありますが、ここのお勧めはなんと言ってもこのアップルパンケーキ。洗面器に入れて焼いたんじゃないの?というくらい巨大なパンケーキの中には甘酸っぱいリンゴがたっぷり、上にはシナモンの利いたカラメルソースがこれまたたっぷりかかっています。(カロリー高そ...)かなり分厚いのに、卵の優しい味のする生地はふんわりと軽くて、ついつい食べ過ぎてしまいます。今回は、このアップルパンケーキ以外にスモークしたハラペーニョ(チポトレ・チリ、と言います)がぴりりと辛いクリームソースのかかった鶏肉とピーマンのクレープと、たっぷりのほうれん草にポーチド・エッグの載ったものを頼んで、三人で分けました。アップルパンケーキを半分お持ち帰りにしましたが、やっぱりそれでも食べ過ぎ感は否めず(笑)。お腹がいっぱいになったところで、いざ北進です。
ウィスコンシンとイリノイを結ぶ州間高速(interstate)のI-94に乗ったほうが早いのは分かっていましたが、高速に乗ってしまうと景色のほうがつまらないので、今回は一般道で行きました。超のつくお金持ちが大挙して(?)住んでいるという噂のレイク・フォレストなどを過ぎ、一時間ほどのんびりとドライブしていくと、新興住宅地の間にぽつりぽつりとトウモロコシ畑が現れだしました。朝方の風に吹かれて揺れる葉っぱが涼しげです。そのあたりで120に乗り換え、今度はひたすら西へ。ここまで来ると時折背の高いサイロや大きな納屋のある農家があったりして、郊外のベッドタウンに浸食されつつはあっても、まだまだ田舎の雰囲気が残っていました。問題のアンティークモールも、その雰囲気を残して、昔の納屋を改装したらしき作りになっていました。
さてこのモール、大きいとは聞いていましたが、実際行ってみると、いやはや聞きしに勝る大きさでした。アンティークを売っている建物だけで三つ、それ以外に(私たちは行きませんでしたが)自動車博物館が併設されていて、さらに「アンティークというほど古くはないけど、でもコレクターアイテム」的なものを売っている建物がもう一つ。個人の骨董屋さんが棚やブースをひと月いくらで借り、そこに並べた商品をモールの従業員に委託して売るというシステムになっているようで、小さなものは指ぬきや香水瓶から大きなものはタンスやベッドまで、とにかく古めかしいものがこれでもかっっ!というくらいギッシリ並んでいました。おばあちゃんの家の押し入れのような、古いもの特有の匂いがして、ああ、この匂いって洋の東西を問わないんだなぁ、なんて妙に感じ入ってしまったりして。最初は面白がって見ていた私たちも、二つ目の建物の最初の数部屋を回ったあたりで疲れきってしまいました。とりあえずアイスティーを飲んで木陰で休憩し、眼をつけておいたものを数点買って、車に戻ると、それもそのはず、もう二時間以上もうろうろしていたのでした。
これは私の戦利品。小ぶりな急須と、お猪口より一回り大きいくらいの小さなお茶碗のセットです。ぼってり分厚い食器ばかりのアメリカで、日本風の薄い焼き物を見つけて嬉しくなって、急須の持ち手も掛けているし、蓋は行方不明だし、さらにはお茶碗の一つにひびも入っているのに、つい買ってしまいました。もともとこれでお茶を入れる気はないんです。お茶碗はソースを入れたり、ちょこっとおつまみを盛ったりするのに使うつもりで、こちらがメイン。急須のほうは、秋になったら菊でも飾ったら素敵かな、と思って。セットで$3.95というお買い得なお値段だったので、ほとんど考えずにお買い上げ。どんな料理とあわせようかと考える楽しみだけで、値段の元は十分取れそうなくらいです。
お茶碗を裏返すと、「九谷造」なんて怪しげな銘が入っていました。柄になった平安貴族の顔もなんだか微妙だし、ほんとに九谷かねぇ、と思いますが、字の形は漢字を知っている人が書いた感じです。九谷焼ではなくても、日本か中国で作られたものだろうな、と思います。いつ頃、どこで作られて、どんな経路でアメリカに来たんだろうと思うと、骨董品とは呼べないようなへなちょこアンティークでも、面白いですよね。母はと言うと、ほっこりした雰囲気のぶどうの模様のついたティーカップとソーサーのセットを二客、それにお揃いの砂糖つぼを買っていました。私の趣味からするとちょっと可愛らしすぎるけれど、母は嬉しそうだったので、一緒に行った甲斐があったというものです。あれだけ沢山あっても、これ!という物がなかなかありませんでしたが、だからこそ面白い物を見つけた時の嬉しさは倍増。ちょっと今は骨董はしばらくいいよ、という気分ですが、またしばらくしたら行ってみようと思います。
骨董疲れしたあとは、モールから車で二十分くらいのケトル・モレイン・ステートパーク(Kettle Moraine State Park)に行き、一周二マイルのループになったトレイルを、のんびりバードウォッチングをしながら散歩してきました。湿地帯を抜け、森に入り、今度は夏の花の咲き乱れる大草原をかすって、と変化のあるトレイルは小鳥の宝庫で、バードウォッチング大好きの母もパトリックも大喜びでした。インディゴ・バンティングやスカーレット・タネジャー、レッド・ヘッディッド・ウッドペッカーなど、見たことはあっても普段なかなかお目にかかれない小鳥がいるかと思えば、見たこともない色とりどりな小鳥も沢山いて、いつもはバードウォッチング狂とは言えない私も興奮してしまいました。湿地帯ではなんとビーバーまで目撃(なにやらものすごい水音を立てて、お昼ごはんの後を追っていました...笑)。野生のビーバーを見るなんて初めてです!
あっちで止まり、こっちで止まり、とのろのろ歩いていたら、たった二マイルのコースに一時間も掛かってしまい、駐車場に戻ってくるころには三人とも腹ぺこ。途中で見かけたカルヴァーズ(Culver's)というソフトクリームのおいしいファーストフード店で遅いお昼にしました。朝あんなにコッテリしたものを山ほど食べたのにお昼もこれではなぁ、と思いつつも、アメリカの田舎のこととて気の利いたものをちょこっと出してくれるようなお店は見つかるはずもなく、ファーストフードにしてはおいしいこのお店へ。もちろん、ソフトクリームも食べましたよ(爆)。
三人で一番小さいのを一つ買って分けたので、罪悪感も三分の一(なのか?)。カシューナッツの塩味が利いていて、アメリカ人の好きなスィート&ソルティーの絶妙な組み合わせで、結構おいしかったです。お腹は一杯だし、一日フルに稼働した疲れもあって、帰りの運転は睡魔との戦いでしたが、久しぶりに遠出して楽しかったぁ〜。
木曜の朝七時の飛行機に乗って、三泊四日でワシントン(州)に旅行に行ってきました。シアトルから南西の方角にあたるオリンピック半島は、そのほとんどが国立公園もしくは国営林に指定されている、滴るような緑がすばらしいところです。太平洋からの湿気が、半島中央の山脈に阻まれて雲になり、一年中雨が多いので、雲を突くような温帯雨林の森に、黄金色の苔がみっしりと生えて、ちょっと神秘的な感じすらします。
オリンピックナショナルパークは去年の冬に激しい嵐に見舞われて、トレイルの多くが損害を被った、ということで、今年になってもまだ多くの登山道が閉鎖されていました。開通している数少ないトレイルの中から、私たちはQuinault Riverに沿って東側に延びる谷間を行くコース(East Fork Quinalt River Trail; Enchanted Valley Trail)を選びました。人生初、キャンプで一夜を過ごすハイキングとあって、俄然興奮も高まります。(30キロはあるバックパックを背負って一歩歩けば、その興奮も惨めにしぼんでしまうのですが...)
始めのうちかつての林道を辿っていたトレイルは、三キロほど入ったところでQuinault Riverの谷間に降りて行きます。トレイル最初の見所とも言うべきポニー・ブリッジという橋からの眺めは、苔むした崖あり、黒々と光る濡れた岩の間を細く落ちる滝あり、氷河から流れ出る青い水に枝を伸ばす杉あり、で、まるで日本の谷川のよう。アメリカ版ポカリスゥェットのようなもので水と電解質を補給しつつ、さらに歩きます。途中には人間を見ても全く逃げようともしない雷鳥(Blue Grouse)や、森の少し開けたところで夕日を浴びながらゆったりと草を食むエルク(Roosevelt Elk、大型の鹿)などがいて、思わず声をひそめ(ひそめなくても逃げないんですが)、歩を止めて見とれてしまいました。
登山口のレンジャーが言っていた通り、ポニー・ブリッジを越えてしばらく行くと、トレイルをまたぐようにして倒れた松や杉の木がぽつりぽつりと現れだしました。これが照葉樹だったら、どこもかしこも枝だらけで、またいで越えるのもくぐって越えるのも一苦労ですが、幸いすっと幹の伸びた針葉樹がほとんどで、助かります。とは言っても、背中に巨大なバックパックがくっついていることもあり、なかなかに大変ではありましたが。右手に見えるQuinault Riverにも、上流から流されてきたのか倒木がたくさん散らばっていました。
大水で橋が流されてしまったFire Creekを越え、さらにえっちらおっちら歩いているうちに、だんだん暗くなってきました。朝シカゴを発って、実際に歩き始めたのは三時近かったので、いくら日の長い北部と入っても、さすがに七時半を過ぎると林の中はうっすらと暗くなります。そろそろキャンプできる場所を探さなければ、ということで見回すと、トレイルに沿ってぽつんぽつんと、丸く下生えを刈ったキャンプサイトが見えてきました。人間が入り込むことによるダメージを最小限にするためにも、このように既に誰かが使ったあとのある場所でしかキャンプしてはいけない、とのこと。納得です。目指していたO'Neil Creekのキャンプ場に降りて行く道が見つからなかったので、その少し手前のサイトまで戻って、そこでテントを設営するころには、既に林の中は真っ暗。そうは言ってもここは熊も出る真の大自然、熊たちに人間=食べ物、という方程式を刷り込まないためにも、においのするものは食べ物からゴミまですべて熊君の手の届かない木の枝から吊るさなければいけません。暗い中でヘッドランプを点けて、引っ越し紐(軽くて丈夫で、こういうことには最適です)でなんとか近くの木に吊るしました。
ロッキー山脈などでは、熊が人間=食べ物、の方程式を覚えてしまい、キャンプ中に熊が食料を漁りに来た、とか、木から吊るしておいた食料を器用に紐をたぐっておろして食べてしまった、とか言う話がよくありますが、オリンピックの熊たちは良い意味で人間に慣れていないらしく、人目につくところに出てくるのも稀なのだそうです。そうは言われても、テントの中で寝ているときに外でごそごそ落ち葉を踏む音がすると、きっとなにかちっぽけな動物なのだと分かってはいても、ややっ熊か!?とドキドキしてしまうのはハイキング初心者の証でしょうか。翌朝起きてみると、吊るした食料もテントの脇に置いたバックパックも無事でした。ほっ。
林の奥に入ってするべきことをすませ、川岸の倒木に座って朝ご飯にします。朝の空気はくっきりと冷えていて、せめて温かいコーヒーが飲めるハイキング用のコンロが欲しいところですが、ここはニッポン女児(とアメリカ男児)、パックの重量を減らすためにも我慢の一字です。(私たちはデジタルの一眼レフを使っているので、そうでなくともズームレンズにマクロ、広角レンズなどなど、やたらにかさばる重い荷物になってしまうのです。)昨日の夜は真っ暗な中でアップルソース(これが冷たくて、のどにさらりと通り、抜群においしかった!)とベーグルに燻製のソーセージを食べましたが、今朝も似たり寄ったりのメニューです。カフェイン中毒の私たちは、せめて冷たいコーヒーでもないよりはましだろうと、小さなパックに入った濃縮コーヒーを水に薄めて飲んでみました。缶入りコーヒーのような味ですが、緊急時にはなかなかいける味でした。
五時半に目が覚めたにもかかわらず、ごそごそやっているうちに瞬く間に時計は八時近くを指し、これはいかん、と早々にキャンプを畳み、出発です。途中でチョコレートやナッツ、ドライフルーツなどがミックスされたトレイルミックス(アメリカではポピュラーなスナックです)をつまんだり、クリフバーというお手軽栄養補給スナックを齧ったりしつつ、朝の金色の光が白昼の強い光に変わる中を歩きます。(このクリフバー、ブルーベリーやアプリコット、ピーナッツバターにミント・チョコレート、とかなりたくさんの味があって、カロリーメイトみたいに口の中でもそもそすることもなく、私のお気に入りのスナックです。)往復約二十キロのトレイルが終わるころには、パトリックと二人で五リットルの水を空にしてしまいました。終始十五度ぐらいの、ハイキングには最適の気候ですらこうなのですから、砂漠の中を歩く人たちなんていったい何リットルの水を担いで行くのかしら、と思ってしまいます。ひえ〜。
雨の多いオリンピックですが、私の初キャンプ旅行は幸運の女神が微笑んでくれたのか、雨も降らず、気温も適度で、かなり快適でした。それでもキャンプを張るころには頭の先から足の先までみっちり汚れた感じがして、寝袋に入るのもちょっとためらわれるくらいでした。タオルを濡らして体は拭いたものの、やっぱり毎日シャワーを浴びられる街の暮らしに慣れた体には気持ちが悪い。一泊以上のハイキング、日帰りでは行けない山の奥まで行けるのは魅力ですが、これを考えるとちょっと二の足を踏んでしまいます。ともあれ、私の人生初・キャンプ・ハイクは、クーガーに襲われることもなく、熊に食料を食べられてしまうこともなく、無事終了です。
食べ物関係で最大の反省点は(フリースジャケットにくるんだリンゴを枝から吊るすのを忘れたことを除けば)、ベーグルでした。他のハイカーの勧めに従って荷物に入れたのですが、ぱさついて喉に引っかかる感じだし、しっかり噛まないと食べられないし、で、疲れているときにはあまりいただけない代物だということが分かりました。普通のパンみたいにすぐに固くならないのは良いんですが...。それより良かったのが、飛行機の中でくれた安物のクラッカー。汗をかいたカラダに塩気がおいしいし、ベーグルみたいに喉に詰まる感じもありません。次回からはベーグルよりクラッカー、というのがこのハイキング旅行の教訓でした。
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